新キャラ紹介、『湊 未来』です!

しずくのおとFP
09 /19 2015
みなさんこんにちは、あけおです。

今日はお待ちかねの、『しずくのおと -fall into poison-』情報です!

前にちらっとだけ申し上げました、念願の新キャラクターの紹介です!

・湊 未来(みなと みく)
まゆの前に現れた謎の少女と知り合いらしい、いわゆるゆるふわ系の少女。
おっとりした性格で、いつもにこにこしている。
家庭に問題を抱えているらしいが……?
好きなガールズバンド目当てで、よくライブハウスに行っている。

・アップ
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・全身
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湊 未来がどう物語に関わってくるのか?
それはまだまだ謎に包まれています!
fall into poisonとなり新しくなった物語は、『人の心』に追求していくものとなっています。

本日からこの連休期間、たくさん情報をお出しできると思います!

ではでは、あけおでしたー。
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PROGESS番外小説『浴衣と花火とイケメンと』

PROGRESS
09 /01 2015
 1

「明日、花火見に行かねーか?」
 ショーヘイからあたし、衛藤綾花の元にそういう電話が来たのは昨日の午後三時頃のことだった。


 今日は八月の三十一日。海葉町の比較的近くで行われる花火大会だそうだ。夏休みが終わり間もなく学校が始まるという時期において、きっとこの日が今年花火を見られる最後の機会だったと思う。


 晶平から花火に誘われるのは、今年初めてではなかった。だからこそあたしは油断をしない。その時は確か八月のアタマ、フタを開けてみればリーダーもその妹も、和人もショーヘイの姉貴とその友達までいるという大所帯だった。

「他に誰が来るの?」

 ついぶっきらぼうになるのは、いつものこと。あたしは電話にそう答えた。

「まだ誘ってねーよ。花火大会があるの、さっき知ったんだ」

「どこで聞いたの?」

「姉貴が言ってたんだよ」

「じゃあショーヘイの姉貴が来るんじゃないの?」

「いや。明日は『ついてくんな』ってさ。すげえ怒ってて、殺されるかと思ったぜ」

 ああ、やっぱりショーヘイはデリカシーがないんだと思う。

「じ、じゃあさ、他の誰も誘わなくていいんじゃない? リーダーは今年も妹の宿題に付き合わされてるんだろうし、和人はリーダーが来ないなら来ないだろうし」

「それじゃ誰も来ねえってことだぜ。火使いのオレとしては花火は見ておきたいんだけどよ」

 そういう理由なのかと呆れながら、私は電話のマイクに向かって大きな声で言った。

「あたしが来るじゃん!」

「バッカ……急に大きな声出すなよ。とりあえず明日の四時に駅な。二人なら大して場所取りいらねーだろ」

「はいよ、りょーかい」

 あたしはわざと、気怠そうな声で答えた。こっちの方が当たり前っぽくていい。

「バカはどっちだよ、ばーか」

 スマホを置くと、あたしはため息をついていた。女子高生なんて素直になれないものだって分かってるけど、自分が少し情けなくなる。

 しかしこの日は、電話が来て花火大会に二人で行くと返事をしただけでは終わらせられなかった。

 何か着ていくものはあったかなとふと思ったとき、花火大会に着ていきたい服なんて一つしかないことに気付いてしまったのだ。それは同時に、たぶん夏の花火大会に着て来てほしい服の第一位でもあると思う。あたし調べだけど。

「浴衣だ……」

 ぽつんと窓の外を見ながら、あたしは呟いていた。夏休み最後の二日間はハンザワを見てビールを飲んで泥のように過ごそうと思っていたが、やめた。

 幸いにも、この夏休みに賭け麻雀で稼いだ金はある。賭け麻雀でおっさん共から荒稼ぎしている時点で、浴衣を着てキャピなんて乙女ちっくなのと無縁とは分かってはいるけど、それとこれとは別問題だ。

「あーもう、なんでこんなごちゃごちゃ考えてるんだよ」


 2

 当日を迎えたあたしは、待ち合わせ時間までそわそわしていた。ドラマを見ていても落ち着かないので、早めに着替えてしまうことにした。こういうとき、着付けを手伝ってもらえないから独り暮らしは不便だ。浴衣がうまく一人で着られなかったら能力でごまかそうと思っていたが、インターネットを見ながらやったら意外と何とかなったのでよかった。

 柄にもなく、姿見の前で一回転してみる。馬子にも衣装とはこのこと――ってこれからショーヘイに言われそうなことはせめて自分では言い切らないようにした。いや、ショーヘイはそれさえも言わないかもしれない。今日暑そうだな、オマエ。うわ、それ言いそう。すっごく言いそう。

 あたしが選んだのは、濃紺にオレンジ色の大きな柄の入った浴衣だった。帯はあえて目を引く白で決めた。鼻緒は柄と同じオレンジ色の格子模様だ。

 ちょっと年上っぽく見えるけれど、実際ショーヘイよりも年上なのだから仕方ない。それにリーダーの妹が似合いそうな子供っぽいのはさすがにあたしのプライドが許さない。媚を売ってるみたいに見える。まあ、その結論に達するまでに昨日は一日消費したんだけどさ。

 家を出たのは、大体一時くらいだった。集合時間の三時間も前に家を出るのは家の中で浴衣っていうのが窮屈過ぎたのもあるけど、時間を潰したかったっていうのもある。

 今日は浴衣の奴も多いだろうから注目を浴びないだろうと思っていたけど、そうでもなかった。夕方にもなっていない時間のせいで絶対数が少なく、男女ともにちらちらと見られる。

 どういうわけか、うわぁ、と自分に引いていた。気合入り過ぎって感じなのかな。
 待ち合わせの駅に到着したのは、集合時間の二時間半前だった。電車に乗ったところで三十分しか潰れていなかった。

「あー仕方ない」

 あたしは駅から少し歩いて、ゲーセンに向かった。デパートで小物を眺めながら時間を潰すというのはあたしに向いていない。

 ガンゲーでゾンビでも撃ちまくってれば待ち合わせ時間になるだろう。ちょっと遅れていく方が可愛らしいくらいか。ぼんやりと思いながらゲーセンに入って一服しようとしたところで、ここは喫煙室が隔離されているタイプだと気が付いた。

「ちっ」

 せっかく買ったばかりの浴衣に煙の臭いがつくのははばかられる。あたしだってそれくらい気にするのだ。仕方がないので万札を両替して、遊び慣れたガンシューティングの台にコインを投入した。

 二人用シューティングゲームで、台には二つの銃がセットされている。本来なら二人で協力してゾンビを倒していくわけでが、やり込んでいるあたしみたいな奴になると、一人で二丁拳銃にして遊んだりする。今日もそのつもりだった。

 そう思ったところで、横槍が入った。見知らぬ男が私に続いてコインを入れていたのだ。

「俺もやっていいかな?」

 背の高い、あたしたちよりもちょっと年上っぽい男だった。見た目は爽やかで、瞳に少し青色が入っていて透明感のある二つの瞳が際立っていた。

 あたしが「何だよ?」というような顔を浮かべていると、男は予想外にも微笑んだ。

「はは、怖いなぁ。だけどそれくらいの覇気がある方がゾンビを倒せるよね。俺、このゲーム得意なんだ」

「……好きにしてよ」

 出鼻をくじかれた気分だが、コインが勿体無いのでプレーを始めた。第一ステージはゾンビ。敵に大ダメージを与えるハンドグレネードの使いどころも完璧で、当然ダメージは一も喰らわなかった。一度ショーヘイとやった時は、一面であいつがグレネードを使い切ったうえ、ボスに辿り着く前にやられたことを考えると雲泥の差だった。

「うん、いいね。浴衣が似合ってるから大人しいのかと思ったけど、結構勝気だね、君」

「…………ほら、次のステージ入るから集中して」

 あたしってば、不意打ちに弱かった。ショーヘイから言われたかった言葉を、このよく分からない男から言われてしまった。しかも都合が悪いことに、こいつはいわゆるイケメンだ。俳優で言うと、海女の朝ドラに出てた奴に似てる。だからあたしの意志とはまったく無関係のところで顔が赤くなってしまう。

 これは、卑怯だ。一瞬でも弱味を見せると、こういう男は一気に攻め込んで来る。あたしはせめてペースを握られないようにゲームに集中をした。

 ワンコインで最終ボスまで辿り着いてしまった。やり込んでいるあたしでも、ここまで来るのにもう二コインは消費してしまう。

「倒せちゃった」

「ね、俺うまいでしょ? だけど君とじゃなかったら俺ももう二コインは必要だったかな。結構相性いいんだって思う。運命って言うと――少し大げさかな」

 イケメンは少し照れた頬をかいた。虫歯になって歯が浮いて全部抜けてしまいそうな甘い言葉だったが、この爽やかなイケメンが言うとどういうわけか絵になった。

 ワンプレーで約三十分。待ち合わせまでまだ時間があるためどうするか決めかねていると、イケメンの方から誘ってきた。

「ちょっと出ようか。ここは喫煙室の出入りでタバコの臭いが漂ってくるから、せっかくの新しい浴衣に臭いがついちゃうよ」

「新しいって、どうして?」

「見れば分かるよ。大体、女の子のお洒落をみて分からない男は駄目だからね」

 あー、じゃあショーヘイは絶対駄目だ、と思いながらあたしはうながされるままにゲーセンを出た。いつもならこんなナンパ無視するのに、浴衣を着ていたからちょっと酔っていたのかもしれない。ビールの時とは違う「酔い」だ。

「ごめん、少し待ってて」

 ゲーセンから少し離れた路地裏にあたしを連れて行くと、イケメンは軽く手を上げて走って行った。駅に集中しているのだろう、人通りは少なかった。

 何やってんだろ、あたし。

 そう思いながらぼんやりと待っていると、イケメンは五分ほどで戻って来た。

「はい、これ。おやつの時間にはちょっと早いけど」

「団子?」

「浴衣だったら、こういう方が似合うでしょ?」

 イケメンが持ってきたのは、いわゆる普通のみたらし団子だった。串に刺さっていて、まあ確かに時代劇だったらこの格好によく似合うだろう。駅の周辺は花火大会のある今日は出店が多いから、そこで買ってきたのだろう。

「少し、話をしたいと思って。時間を気にしてるみたいだけど、せめてこれを食べている間くらい付き合ってよ」

 で、話をしたいから路地裏……ね。あたしがさっさと帰っていたらどうするつもりだったのだろう。もっともこの爽やかイケメンには、相手が帰るっていう発想そのものがないのかもしれない。

 建物の間だけあって、路地裏は見える範囲が全部日陰だった。ただ飲食店の裏手というわけでもないのだろう、生ごみの臭いはなく、本当に普通の路地裏だった。あたしは奥にいたので、イケメンは私をふさぐ形になっていた。

 時間を気にしていることも見抜かれていたわけだし、抜け目ないっていえばそうなのかもしれない。

 不審に思わないわけではなかったが「どうせ時間もあるし」とあたしは団子を一本もらった。

「うん、普通だ」

「辛辣だね。だけど、ようやく緊張がほぐれてきたんじゃない?」

「緊張なんて……」

 言いかけて、否定できないと思った。全く、服の力というのは恐ろしい。まったくおしとやかじゃないあたしを、どこかそうなりたいと深層心理で思わせてしまうのだから。

 どうでもいい話をしていると、案外悪い気はしなかった。こいつが話し上手なのかもしれない。どうでもいい話なのにどうでもよくないように相槌を打つし、どうでもいい話をどうでもよくないように話す。ちょっと感心すらしていた。

「いいよ、もうあたし帰るよ」

 これ以上一緒にいたらペースに飲み込まれてしまうと危機感をおぼえ、あたしは男にそう提案をした。団子はまだ一個残っていた。それを食べる時間さえも、あたしにとっては危険だったのだ。

「わっ……」

 団子を男の持つトレーの上に置こうとしたのと、男が手を引いてあたしを引き留めようとしたタイミングはほとんど同時だった。

 着地点を失った団子は、そのまま宙へ。あたしの浴衣の上に向かって落下している。みたらしの茶色い醤油ダレが、まだ今日着たばかりのあたしの浴衣を汚そうとする。

 しかし、あたしにとっての最悪の事態はすんでのところで防がれた。

「危ない!」

 男は素手で、団子を受け止めた。男の手の甲があたしの浴衣に触れるくらい、それはぎりぎりの反射だった。

「あんた、汚れて……」

「浴衣が汚れるよりは全然マシさ」

 嫌味なんて一切感じられなかったから、きっとそれは本心だったのかもしれない。男はそのままあたしを路地の壁にドン、と押し付けると団子を口に放り込んで来た。やばい、これは最近流行りの壁ドンだ。しかも、マジのやつ。

「んぐっ」

 うろたえたあたしを見ても、イケメンは真剣な顔をしていた。

「それを飲み込むまででいいから、聞いてほしいんだ」

 男の顔がぐっと近くなった。青みがかった目は思った以上に大きくて、まつ毛はあたしの素より長くって、こいつは本当に顔が整っているなーとぼんやり考えることしか理性を保てなかった。

「俺はさ、ハーフなんだ。日本人とスウェーデン人の」

 団子をくわえているせいで、ちゃんとした返事はできなかった。だが、イケメンは構わずにそのまま続けた。

「昔から日本に住んでたから、母国語は完全に日本語なんだけどさ、小学校で教師が一番最初に俺の目のことをみんなに紹介したんだ。その時から、物珍しがられた。何だか、触っちゃいけないような扱いを受けた。どっかの親が、『あいつはハーフだから生活が全然違う』って言いだしたのかもしれない」

 あたしは少しだけ心を落ち着けて、男の話を聞いていた。

「今思えば、そうやって卑屈になったのは俺なんだけどさ。中学校に入っても引きずって、俺はいじめられた。顔が整ってるらしくてさ――当時は好きになれなかったから――自分を卑下し続けて、余計にひんしゅくを買ったんだろうな。自分で言うのもなんだけど、モテたから。でも、全部断ってた。それがさらに火種を撒いたってわけだ」

 別に、珍しい話ではない。

 だけど、ちょっぴり可哀相だとは思っていた。周りと馴染めないって意味では、今でも堂々と不良少女を演じている自分からすれば、現在進行形だ。気持ちが分からないとは言い切れない。

 団子はようやく半分といったところだった。

「俺が変わったのは高校の時。俺の顔じゃなくて、心を好きになってくれた初めての女子がいた。高校時代は恋愛の時代だった。俺もちょっとだけ非行に走った。あいつも一緒に。楽しい日々だった。だけどあいつは――」

 男は目を細めて、一瞬だけ、初めて見せる顔をした。

「死んだ。交通事故だ。赤ん坊を守ろうとして道路に飛び出して、車に轢かれた。そんなドラマみたいな話あるかよ!」

 感情的に言ったイケメンは、すぐに「ごめん」と冷静に戻っていた。

 あたしの方も、何かを堪え始めていた。

「事故に遭った日、あいつは浴衣を着ていた。花火大会だったんだ。彼女は大学に、俺は就職するから、高校生活最後の花火だって。あいつは花火が好きだった」

 少しだけ日が傾き始めているのだろう。影があたしの方に近付いた。

「それ以降、俺は恋ができなかった。だけど今日――君に会えた。始めは偶然じゃないかと思った。目を疑った。だけど君と話して思った。気が強いけど、本当は乙女ちっくな君は本当に似ているんだ。だからこれは」

『運命だ』

 食べ終わった団子の串を男に向け、あたしは言った。イケメンが言うのと、ほとんど同時で声は重なっていた。

「え?」

「やべー、ちょーうける。本当にそう言うとは思わなかった」

 耐えられなくなって、あたしは腹の底から笑っていた。浴衣を着たおしとやかな自分なんてこれっぽちも偽装できなかった。

「途中から、そうじゃないかと思ったんだよね。だけど、マジで言うとは思わなかった。運命……二回も言うなよな。団子の甘さなんてもう忘れちゃったじゃん」

「き、君……?」

 あたしの突然の変貌に、男は動揺していた。

 だがしかし、そこはあたしをナンパしようとしたイケメンの矜持というもの。すぐに顔を整えて「そうだよな。過去は過去だよな……」とナナメ四十五度を向いて言った。

「過去は過去? 馬鹿言わないでよね。そんな過去存在しないんでしょ、だってさ」

「何? それはさすがに失礼……」

 あたしは男の腕をくぐりぬけると、自分のできる最大限の嘲笑を浮かべた。

「あんたの青い瞳、カラコンじゃん」

 あたしの前で何かを偽装するにはあまりにお粗末だ。

「いつから」

「会った瞬間から。浮き過ぎなんだよバーカ。あんたはそれで女を落として来たんだろーけどさ、みんな気付いてたはずだよ。あんた顔は悪くないからさ、抱かれるだけならいいって思ってたんだろ」

「て、てめえ!」

「図星なんだね。よかったよかった。悲劇の女はいなかったんじゃん」

「この野郎……」

「野郎じゃないよ。君、とか甘い声で囁いてたクセに」

「んぎぎ……!」

 イケメンは怒ってもイケメンだ。あたしは一つそれを学んだ。

 きっと、ここまで正面から指摘されたことはなかったのだろう。青筋まで浮かべている。本性がこれじゃ、顔だけよくても持ち腐れだ。

「あんたの言葉を借りるけどさ、誰もあんたの心なんて見てねーんだよ」

「いい加減にしろ! 女が逆らうんじゃねえ!」

「あーやだやだ。キレるならもう少し段階踏んでからキレなよね。格好悪い」

 男は怒鳴った後、拳を握っていた。

「いいか、お前みたいな女、力づくで……」

「これでもか?」

 あたしは男に、瞬時に現れた刃の切っ先を向けた。刃渡り二尺三寸はある日本刀だ。

 男はその先端に釘付けになっていた。

「な……に、日本刀!」

「トリックは得意なんでね。用意したんだよ。まだやる?」

「て、てめえら来い!」

 男は路地の向こうに向かって叫んだ。だが声は空しく、木枯らしに消えて行った。

「逃げたみたいじゃん」

「ち、畜生! もうヤケだ」

「ヤケになるのも速いんだよソーローヤロー」

 腰の入っていないへなちょこなパンチを軽くしゃがんで避けたあと、あたしは手にした『日本刀』を『片手』で振り抜いた。

「あべ」

 男は真っ二つに切れるはずなんてなく、そのまま気絶してしまった。斬られるという恐怖に怯えたにしても、あまりにみっともない。

 あたしはイケメンだった男に向かって『片手』で『団子の串』を投げ捨てた。あたしの持つ『能力』はこうやって物を別の物に『偽装』することだけど、それは長くなるからまた別の話だ。

 さて、こんなところに長居をしてもしょうがない。

 そう思って、あたしは最後に男の顔をちらりと見た。自慢の青い瞳の痕跡はなく白目を剥いて恥ずかしい顔をしていた。

 女をナンパするのに小細工を弄さないといけないくらいなんだから、かなりの小心者なのだろう。

「浴衣を守ったことだけはま、感謝してるよ」

 おかげ様で、あたしはただ団子一本分だけ得をしたわけだ。

 どっちが本当のこいつかなんて、ま、どうでもいいけどね。


 3

「よっ」

 待ち合わせ時間ぴったりに、駅のベンチに座ったあたしの元にショーヘイがやってきた。浴衣のあたしを見て、
ショーヘイはなんて言うかちょっとだけ楽しみにしていた。

 どこかの出店で買ってきたかき氷を手にして、いつも通りの不良ぶったガニ股で近付いてくる。普通待ち合わせで合流してから出店に寄るだろとか、そもそも何でかき氷なんだ花火ならビールだろうがでもショーヘイはガキ舌だからビール飲めないしなどなど、イライラと一緒に期待と不安が渦巻いていた。

 そしてその不安は、予期せぬ形で現実になることになる。

「あ」

 あたしの手前でバランスを崩したショーヘイの手から、かき氷が宙に舞った。

 そしてイチゴシロップに加えて練乳のたっぷりかかっているかき氷は、あたしの浴衣に正面からダイブしてきた。胸のふくらみのところで生意気にも跳ねて、膝の上にも氷をまき散らし、最終的に地面に落ちて、あたしの橙色の格子の鼻緒をピンク色にしてくれた。

「あっ……。悪い……」

 あたしが胸の奥で楽しみにしていた第一声は、「あっ……。悪い……」に決まりました。

 拍手の代わりに、あたしは思い切りアゴをグーでいった。


「なー、そんなに怒るなんて」

「こんなことなら、あのソーローヤローについていくんだった」

「え、何て?」

「うるさい!」

 ため息をつきながら、あたしは花火が上がるのを待っていた。時間に余裕があったので、あたしは駅ビルで着替えを買った。もちろんショーヘイの財布に大打撃を与えてやった。

 ショーヘイはさすがに制服ではなかったが、浴衣でもない私服だった。だからそういう意味では、私服のあたしとでバランスは取れているかもしれない。

 人ごみの中、あたしは飲み物に口をつける。冷えていたせいで、怒りを鎮めるためにぐいっと飲み干してしまった。

 昼間よりも少し蒸し暑く感じた。花火大会は川で行われるので、川辺に来たからかもしれない。空はすっかり暗く、今はせめてこの花火だけを楽しみにしていた。あと五分で一発目が打ちあがる。立っているのも雰囲気が出ないので、あたしたちは少し離れた土手に座った。

 前の方が花火は近いけれど、人混みの中心にいるのが嫌いなのは二人とも同じだった。

 やはりというべきか、周りにはカップルだらけ。それも多くは男女ともに浴衣を着ていた。

「あたしも、浴衣着てるはずだったんだけどなぁ」

 前かがみになって、あたしはぼそっと口にした。ショーヘイは間髪入れず、「じゃあ」と答えた。

「来年も行こうぜ?」

 いともたやすく、ショーヘイはそう言ってのけた。

 そう、こういうのを本当の不意打ちと言うのだ。計算されたタイミングじゃない。また「ごめんって」なんて情けなく謝ると思っていたのに。まさにあたしの誤算だ。

 似合わず慌てて、あたしは言葉を失ってしまう。

「来年はリーダーとか和人とかも呼んでさ、盛大に……」

 相変わらず、言葉は出なかった。だからショーヘイが言い終える前に脇腹をつねってやった。

 どうせそんなことだろーと思ったと、心の中でため息をついた。

 だけど、何を血迷っていたか分からない。いつも通りのショーヘイの間抜けっぷりに気が緩んだからかもしれない。その一瞬だけ、あたしの本音がこぼれそうになった。

「――――」

 その言葉は、誰かに聞こえることなんてなかった。

 花火の一発目が、盛大に空に咲いた。時間差で爆音が轟く。赤と青の二色が、街も人もみな照らした。強い光に、あたしは心を奪われていた。その瞬間はここにいる誰もが空を見上げて目を花火と同じ色に輝かせていた。ふとショーヘイの顔を見ると、満足そうに微笑んでいた。

 大玉花火を皮切りにして、二発、三発と花火が打ち上がった。一瞬にして夜から朝になったかのような閃光に目を奪われてしまい、もうよそ見はしないことにした。

あいうえおカンパニー

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